今回のまちづくりコラムのテーマは、多様な働き方に合わせたこれからの「オフィスの在り方」について。
2018年に働き方改革関連法が成立し、その後のコロナ禍では、多くの企業でリモートワーク制度の導入が進みました。出社のメリットを実感する人もいれば、リモートでの働き方が定着して移住を決めた人も。出社とリモートワークを組み合わせて、フレキシブルな働き方を選ぶ人もいます。複雑化する社会の中でオフィスはどう在るべきなのか。
本記事では、創業40周年を機に、オフィスの在り方を見直すべく全面リノベーションを行った、株式会社トータルシステムデザインの橋本さん(以下敬称略)にインタビュー。これから全社的に稼働が始まるというタイミングで、新オフィスへの思いと今後の展望を伺いました。
エイトデザインは、設計・施工を担当しています。
エイトデザイン:今回のリノベーションにあたって、事前に社員の方々にアンケートを行ったそうですね。どのような意見が挙がりましたか。
橋本:多く挙がってきたのは、休憩スペースが欲しいという声でした。これまでのオフィスは固定席だったため、仕事をするのも昼ごはんを食べるのもずっと自分の席で、同じ景色の中で一日中過ごしていたので、仕事から離れて、オフの雰囲気を作れるような場所が欲しいという希望でした。他には、このオフィスに引っ越してきてから12年ほど経っていたんですが、机なども痛んできたり、壁が汚れてきたり、そういった施設の老朽化を改善したいという思いもありました。
エイトデザイン:希望を反映させて、オフィスを仕事に集中する執務室とラウンジに分けることにしました。ラウンジは、休憩だけではなく打ち合わせ場所としても使用できるように、いろいろな仕組みを設けてあります。モニター付きの半個室の席は、休憩時と打ち合わせ時で照明の色を変えることができますし、雰囲気に馴染んだ吸音パネルを貼っているので声の響きを心配する必要がありません。また、垂れ壁のところにはロールスクリーンが備え付けてあるので、必要な時は空間的にも仕切ることができます。過ごす場所が変わることで、意図せずともオンとオフの切り変えができるというのは、気分転換にもなりますね。
橋本:働く場で言うと、今回の工事中も社員にはリモートワークで対応してもらったんですが、普段仕事をしている中でリモートワークが進んでおりまして、固定席だと居ない人のスペースも確保しなければいけないというのが不便さを生んでいるところもありました。このリノベーションを機に、執務室はフリーアドレスにして、個人ロッカーを設けることにしました。
エイトデザイン:フリーアドレスの良さは席が自由であることですが、それによって物を置きっぱなしにしないので、働く一人一人の省スペースが叶い、オフィスを綺麗に保つことができるというのもメリットになります。今回のリノベーションでは様々な特性を持った席を設けましたが、どのような使い方を想定されていますか。
橋本:コミュニケーションのとりやすさを考えられたオープンスペースと、開発職など作業に没頭したい人は窓際の集中ブースがありますので、自分の業務内容や仕事のスタイルに合わせて席を選ぶことができます。特に若手社員は、別部署の人に話しかけづらいとか、先輩に聞きたいことがあるけれど様子を伺っていたらタイミングを逃してしまった、ということがあると思うんですよね。これからはフリーアドレスの良さを活かして、同じプロジェクトを担当している人とは近くの席に座ってコミュニケーションが円滑に取れるようになったり、話しやすい雰囲気作りも進めばいいなと思っています。
エイトデザイン:以前は、下駄箱があって、靴を脱いで働くスタイルのオフィスだったと伺いました。
橋本:創業当初のオフィスが一軒家のようなところだったので、玄関で靴を脱いでスリッパで働く、というのが会社の文化として存在していたんです。何度かオフィスを移転しているんですけれど、出社したら下駄箱に靴をいれて内履きに履き替えるというのが通例として残っておりまして。今回それを廃止したんですけれども、大きめの個人ロッカーを採用したので、社内ではリラックスして過ごしたいなという人はこのまま続けてもいいし、これからは足元までオシャレするぞという人も居ていいと。自由に自分の意思で働き方を選ぶことができます。
エイトデザイン:いろいろな思いの人がいると思うので、文化が消えるのではなく、柔軟に選ぶことができるというのはとても嬉しいですね。今回のリノベーションのキーワードとして「変化」を重要視されたそうですが、オフィスデザインの変化についてお聞かせください。
橋本:社内のリノベーションプロジェクトのメンバーの中から「変わったと一目でわかるようにしたい」という声が挙がっていたんです。デザインに関しては、エイトデザインさんからのご提案も多く取り入れさせてもらって、プロの意見を頂けてすごくよかったなと感じています。この、オフィスに入った瞬間に天井が抜けているデザインは、費用的にどうしようかなっていう相談をしていたんですけれど、開放感がありますし、目で見てすごくわかりやすい変化だというところで採用することにしまして。工事後に社員が見にきた時も、まず天井を見上げていて「おおー」という声が挙がって、みんなが注目してくれて良かったなと思っています。他にはブルックリン調のレンガを貼ったラウンジスペースも、今までのオフィスとガラリと変わる、イメージとしては真反対にあるようなデザインなので、選ばせていただきました。
エイトデザイン:狙って作った場所が反応してもらえると嬉しいですよね。視覚的に変わるとすごく心持ちも変わると思うので、空間のアクセントとなるポイントを作るというのも、オフィスリノベーションの魅力のひとつでもあるなと思います。
エイトデザイン:執務室とラウンジを分けましたが、その仕切りは格子窓なので、ラウンジに居ても執務室が見えますし、視界は繋がっています。以前は閉鎖的な間取りだったという社長室や管理室にもガラス窓を設けて、中で働く人の姿が目に入るようになりました。
橋本:お互いの姿が見えるということで、話しかけたり、ちょっと用事がある時にも様子を伺いやすくなっていて、働きやすさの変化が生まれているところです。
エイトデザイン:普段業務であまり関わりがない人同士でも、同じ会社で働いているという連帯感が生まれますね。執務室の中には、機器のキッティングなど、クライアント向けに多くのデバイスを並べて作業する為のラボのスペースを作りましたが、立ちながら作業されることもあるということで、ロッカーと棚の上部をカウンターとして使うこともできます。ここにも壁は作らず、収納棚で緩やかに空間を仕切っていて、階段を上がった場所にあるので視界に変化をつけているイメージでしょうか。この床の段差を利用して、奥行き180cmもある大容量の床下収納を設けてあります。
橋本:新しいオフィスは収納スペースが多くとられていて、かつ、必要な場所に必要な分あるので、すごく過ごしやすい環境になりました。これまでは、収納する場所が決まっていない物が雑多になってしまうことがあったんですけれど、きちんと収納できて綺麗なオフィスに見える、という使い方ができているのはうれしく感じています。社員と話していると、収納もそうですし、執務室やラウンジをどういう風に使っていこうかっていうのを、一人一人が考えてくれているのが実感としてあります。
エイトデザイン:一般的にはオフィスというのは完成された場所で、ただ自分はそこで仕事をするというイメージがあると思うんですけれど、リノベーションで新しくなったオフィスをどう使っていきたいか、そう考えられるような空間にできたというのは、社員の方々にとってもとても新鮮なのではないでしょうか。
橋本:そこは我々としても、期待していた変化だったので、すごく嬉しかったです。
エイトデザイン:「変化」をキーワードにしたリノベーションということで、新たに取り組んでいきたいことはありますか。
橋本:今回いろんな特性を持った席を設けることができたので、社員の皆さんにはまずはいろんな席を使ってもらって、ここだといいパフォーマンスができたなとか、明日はこっちの席の方がいいかもとか、そういったことを考えなから実感して貰えたらいいですね。他には、オフの時間の話になりますが、ラウンジの丸いテーブルを使ってピザパーティーをしたり、せっかく白くて大きな壁ができたので、仕事終わりにプロジェクターを使ってスポーツ観戦をしたり、そういったレクリエーションも考えていけたらいいなと思っています。
エイトデザイン:それは楽しそうですね。休憩時間や就業後に社員の皆さんがテーブルを囲んで、ワイワイしながら。そういう時だから取れるコミュニケーションというのもありますもんね。先ほどの収納の話でもありましたが、社員の方がオフィスをどう使っていきたいかを考えられる空間になったということで、これからの展開が楽しみです。
エイトデザイン:一番最初のお打ち合わせから約1年間、一緒にこのリノベーションプロジェクトに取り組ませていただきました。今日、オフィスを紹介しながら各所に対する思いをお伝えいただきましたが、それを具現化できている素敵なオフィスになったのではないかなと思っています。感想をお聞かせください。
橋本:この1年間は、一緒に悩んだり相談もたくさんさせていただいて、特に工事期間に入ってからは、弊社の社員よりも顔を合わせる機会も多かったので、もう戦友のような感じで。我々も成長させていただいたなと思っています。個人的には、オフィスや環境ということに対して、1年間真剣に向き合って考えることができたなと思っているので、そこをサポートしていただいてとても感謝しています。
エイトデザイン:実際に社員さんが使われるようになってから、良さが実感できるような場所だったり、逆にもうちょっと、ここがこうだったらよかったという部分も出てくるかもしれないと思っているので、その辺りを今後とも共有していただきつつ、使用した後の変化も教えていただけたらと思います。
橋本:作って終わりではなくて、オフィスは使ってこそだとも思うので、そこは今後とも長く、関係を築けていけたらなと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。
エイトデザイン:ありがとうございました!