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まちづくりコラム:リノベーション会社が屋形船をデザイン!? 犬山市が所有する屋形船「若あゆ丸」のリニューアルプロジェクト

エイトデザイングループの家具制作部門「HACHI KAGU」が、愛知県犬山市が保有する唯一の屋形船「若あゆ丸」の改修を手掛けました。

1300年の歴史を誇る愛知県犬山市の夏の風物詩「木曽川鵜飼」を幅広い年代の方に知ってもらい、継続と発展を目指すプロジェクトの一環としての取り組みです。

リノベーション会社が船のデザインをするという異色のプロジェクト。
今回のコラムでは、プロジェクトの経緯や実際に完成した船のデザインなどをご紹介します。

犬山の木曽川鵜飼の発展を目指したプロポーザルの実施

犬山市では、犬山観光の発展と持続可能な観光まちづくりの実現を目指し、木曽川沿いの美しい景観を保全しながら、何度も訪れたくなる魅力的な空間づくりを進めています。

プロジェクト実現のためには、遊覧船のクオリティを上げることが重要であり、犬山市が唯一保有する屋形船「若あゆ丸」の改修と遊覧船メニューの拡充を行うことになりました。

若あゆ丸は1989年の就航以来改修の実績はなく、老朽化が進んでいる状況です。

プロジェクトには造船やデザインに関する専門知識だけでなく、創造性や技術力、豊富な経験、他地域の成功事例にも精通している人材が選ばれることが求められました。

公募型プロポーザル方式で適正な受注者を選ぶための公開募集が行われ、HACHI KAGUの提案が通りました。

なお、この改修プロジェクトは、実業家の前澤友作氏のふるさと納税によって支援されています。前澤氏は、コロナ禍で影響を受けた観光分野の発展を促すための提案を募集しており、犬山市の屋形船改修プランが選ばれた経緯があります。

提案のテーマは、「屋形船から始まる犬山物語」

犬山市は国宝犬山城や城下町、木曽川の河川空間など、歴史と文化の詰まったエリアですが、一般の方にはまだ「犬山といえばこれ!」というものがまだまだ定着していない状況です。

屋形船をきっかけに犬山の歴史物語と現代物語を体験でき、そして発信しやすい環境を整えることをHACHI KAGUは提案しました。

屋形船での過ごし方を宴会スタイル、遊覧スタイルで想定し、目的に応じてカウンターのレイアウトを変更できるようなデザインを当初は提案していました。

船頭と宮大工の力も借りて

実際の造船にあたっては、木曽川観光の船頭、そしてエイトデザインの創業時からリノベーション工事を手がける宮大工の知識も借りました。

デザインも現場の声を聞きながらブラッシュアップ。

特に、実際に運用する船頭のためにメンテナンスのしやすさ、横風の影響を受けにくく安定して操縦できる形状や軽量化を、利用者のためにはゆったりとした席間隔、景色を見やすいよう視界を遮らないインテリアや照明計画などの工夫をしています。

たくさんの方の力添えと協力により、若あゆ丸は2023年5月26日に試験運行、6月1日の木曽川鵜飼開きで無事お披露目となりました。

犬山の歴史物語を散りばめた屋形船に

新しい若あゆ丸は、実用性と美しさを突き詰めた、前方や後方まで見通しの良い引き算のデザインに。

屋根はガルバリウム合板で軽量化を。若鮎の背鱗をイメージした深緑色で仕上げています。

一枚板のテーブルは木曽産の檜。かつて木曽川が木材運搬のために使用されていた歴史の一端に触れることができます。
使用しない時は簡単に折りたたむことができ、床や船底などのメンテナンスもしやすいよう工夫しています。

提灯の照明はユネスコ無形文化遺産に登録されている犬山祭の提灯職人による手書きの一品です。

船内外の照明は調光式になっており、船の操縦や景色の観覧の邪魔にならないように明るさを調節できます。

鵜籠をイメージしたテーブル照明で、食事をより美しく見せる演出も。

屋形船での新しい過ごし方・楽しみ方をデザイン

従来の鵜飼は靴を脱ぐ座敷スタイルでの観覧でしたが、ベンチタイプになったことにより靴はそのままで外国人など体格の大きい観光客でも観覧しやすくなりました。


新しい若あゆ丸は鵜飼観覧船としての使用はもちろん、貸切船という特徴を活かしてワーケーションや動画配信など令和の時代に合った新しい利用シーンも想定しています。


テーブルには電源とUSBコンセントも完備しています。

屋形船プロジェクトへの想いは──

犬山市役所観光課 小澤さん
“濃密でしたね。河川空間コンテンツの高質化を目指して、昨年の8月からずっとこのプロジェクトにかかりっきりでした。ハチカグさんにはすごく頑張っていただいて、建築とは違うリスクもある中で船頭さんの意見もうまく取り入れて良い船を作ってくれました。最終的には既存の船より1トン以上も軽量化できて、船頭さんも新しい船は使いやすくて良いと喜んでくれています。“

“いい船ができたので、これからはたくさんの方に新しい使い方をしてもらいたいです。”

最後に──

“若あゆ丸に込めた思いやデザインの工夫は山ほどあって、語り出したら1日くらいかかりそうです”と担当したハチカグクラフツマンの稲熊。

メンテナンス性のこと、見栄えのこと、操縦性のこと、伝統的木造建築のこと、、、今までにない知識が求められた今回のプロジェクト。
熱い想いはぜひ稲熊に直接聞いてみてください。

今回デザインした若あゆ丸は貸切船(定員16名)として利用いただけます。
鵜飼はもちろん、パーティーや企業での催し、ワーケーションなど、新しい使い方で楽しんでいただけたら嬉しいです。
利用方法などの詳細は、木曽川鵜飼遊覧のホームページで近日公開予定です。

木曽川鵜飼遊覧公式サイト